Intel 移行に関して
マーケティング的な問題は置いておくとして、技術的な問題はまだ表面に出てきてない。WWDC の Keynote で Jobs は、Xcode、Universal Binary、Rosetta といった点について述べて、移行は No Problem だと言い放ったが、こういうときの彼のハッタリは常人のレベルではないので信じるわけにはいかない。
デモで Photoshop, Microsoft Office, Mathematica などが紹介されたが、これらはすでにどれも Wintel 環境で十分なノウハウを持っており、クロスプラットフォームも考えに考えられて作られたソフトウェアだから、むしろ動かせなきゃ問題。
実際に問題となるのは、PowerPC アーキテクチャ純粋培養の小規模・中規模ソフトウェアであって、こういったソフトが実は Mac OS X のキラーアプリであると個人的には思っている。これらがスムーズに移行できてくれるよう切に願う。
さて、今までの Mac OS X は、PowerPC の AltiVec をフルに活用して Quartz などの描画の高速化を行ってきたと思う。これらの技術は単純に移植するわけにはいかない。Pentium も同様のベクトル演算に特化した能力は持っているけど、結局は書き直しだし、パフォーマンスを引き出せるまでには時間がかかるかもしれない。とはいえ、時間がかかるかもしれないが、Jobs が過去5年間の間に Mac OS X は Intel チップでも動作するようにコンパイル作業は行っていたというから、Apple に体力があったのであればある程度のノウハウはすでに持っているかもしれない。
ただし、たとえそういったベクトル演算がダメダメだったとしても、 Quartz の速度に関してはあまり問題にはならないのではないかと思う。これは以前から促進されてきたビデオカードを利用した描画機能が Tiger で一気に開花したからであって、Jobs としても描画処理は CPU は使わずにほとんど GPU で処理させるつもりだと思われるから。Intel 版 Mac が発売されるのは1年後だから、その頃にはすべてのマシンで Quartz 2D Extreme と CoreImage がバリバリ動いてくれている。Quartz に関しては問題ない。
一方で、心配なのが PowerPC アーキテクチャの持つパフォーマンスを本当に必要としているようなソフト。これは科学計算の分野で特に多いけれど。この分野が Pentium で満足するのか、そしてちゃんと Pentium に移行できるのか、心配だ。決してメジャーな領域ではないが、Mac OS X (as UNIX) + PowerPC という組み合わせだからこその領域であるだけに、たんなるシェアの問題では考えられない。この領域にいる人たちを納得させられるハードウェア作りをしていかなくちゃいけない。
もともと PowerPC とか Pentium とか、IBM とか Intel みたいなこだわりはないので、今回の発表は素直に歓迎しようと思う。不安要素はあるにしろ、メリットも十分に大きい。予想以上に移行のための環境も充実しているし、周囲の反応も好意的なものが多そうだ。買い控えの不安があるけど、買い控えの後に一気に売れてくれるなら、今の Apple の体力なら大丈夫だと思う(そのときにちゃんとハードウェアを供給して欲しいものだ)。
最後に、あちこちで指摘されれている Intel Inside シール。あれだけは勘弁願いたい。Jobs の美意識にもそぐわないはずだから、Jobs パワーでシールなしの方向に持っていってもらおう。